KoganeiTex Co.,Ltd.
東京学芸大学 大澤克美助教授との『ものづくり』対談抜粋より
 キーワード   技術力・開発力・試作品・熟練技術・フレックス・達成感・人づくり
 調査の目的
試作品づくりを中心にした小金井テックスを支える高度な技術力・開発力の実相とそれを支える手だて、さらには厳しい状況が続く中でものづくりに取り組んでいくための経営課題等について聞き取りを行う。
 
@小金井テックスを支える技術力・開発力の本質についてコストダウンがどれほど可能になるかは設計技術による部分が多く、高品質でありながらいかに経済性に優れたものを設計できるかが問われることになる。
同時に設計段階では、必要に応じて発注側のプランにより適切な提案をしていく能力も求められる。
こうした高度な設計の能力が設計そのものにとどまらず、ものがつくられる過程や現場に対する深い理解に支えられていることに留意しなければならない。
設計技術による構想を具体的な形にするためになくてはならない高度な技術・技能であり、熟練によって形成されたものであるといえよう。
試作品づくりにおいても、求められる技術・技能の多様化、リードタイムの短縮化などからマシニングセンター等の機械設備は当然重要となるが、試作品という新たなものをつくるに当たっては、これまで行ったことのない加工や組立にも対応できる技術・技能が必要である。
特にここでは、一つの分野の技術・技能に習熟するだけでなく、複数の分野に渡る技術・技能に精通することで工程全体を見通し、場合によっては設計側に提案できる高度な熟練技能が求められよう。
それを支えているのは技術と技能の接近、融合を図る経営と、それによって醸成されてきた会社の風土・文化であると推察される。

A技術力・開発力の育成について
小金井テックスは、製造業には珍しくフレックス制を実施しているという。
フレックス制には、仕事に自分を合わせるのではなく、仕事を自分に合わせるといった側面がある。
いうまでもなく個々に作業の内容や量を自由に選べるわけではないが、受け持つ仕事について自分の都合等を考慮しどのように作業を進めていくかを決めるのは、働くことに対する各自の主体性を認めるものであ。
同様に有給休暇についても、できる限り個々の希望・判断を尊重し、その使い方に関する主体性を認めるよう努めているという。渡邉氏は、がんじがらめにしないことで主体性を発揮させるようにしていると語っている。
 ポイントの二つ目は一点ほど明確ではないが、働く人々の達成感を大切にしていることではないかと推察される。
渡邉氏は、現場に立っていた自らの体験を振り返る中で、ものづくりの仕事の楽しみや喜びは、今までと違うことができたといった達成感・満足感であったと述べている。
実際にはまだ未熟でも、前より上手くできたと誉められることは技術・技能の向上に対する意欲を引き出す。
例えば、達成感が強いほど次はもっときれいに、コストを半分にといった気持ちもまた強くなるのである。
加えて、小金井テックスの仕事が試作品づくりであるだけに一品ものに携わることが多く、できたものやその使われ方を確認することが容易であるため、量産品の場合とは異なり自らの手でつくったという達成感を味わうこともできる。
こうした達成感を大切にする経営者の意識は、具体的な形を伴わなくとも「人づくり」に結びついていると思われる。
 ものづくりにおける「人づくり」には、いうまでもなく長い時間を要する。そのため向き不向きもあろうが、基本的に長く勤めることで経験を積むことが重要になる。現在、小金井テックスには40年勤めている人を筆頭に、勤続30年以上が5人おり、高度な技術力・開発力の中心となっている。バブル以降の厳しい状況の中で給与等を下げざるを得なかったと渡邉氏が語ったことと考え合わせるなら、この事実は上記の主体性と達成感の重視が人材育成にとって一定の効果を生んでいると考えるべきであろう。
 なお、具体的な技術・技能形成に関しては、OJTを通しておよそ3年を目安に一つの技術・技能を身につけさせるようにしているという。
汎用機で作業する経験をした後MC等のNC機器を使うという順序は習熟の一般的なコースであるが、そうした過程で本などからの知識の習得もまた大切であると渡邉氏が強調していたところに、知識と技能の融合を図る小金井テックスの社風が現れているといえよう。